16時間断食が教えてくれた静けさ
16時間断食を始めた日のことを、私は今でもはっきり覚えています。
朝食を抜くという、たったそれだけの行動なのに、
どこか大きな決断をしたような、不思議な感覚がありました。
最初の数日は、ただ「食べないだけ」のはずなのに、
心の中がいつもより静かになるのを感じました。
朝の空腹は、苦しさや不満ではなく、
“余白”のように私の中に広がっていったのです。
食べ物を入れない時間が長くなると、
体は本来のリズムを取り戻し始めます。
血糖値はゆるやかに落ち着き、
頭の中のノイズが少しずつ薄れていき、
気づけば思考が澄んでいく。
朝の光、風の音、足音さえも、
以前よりはっきりと感じられました。
「こんなに静けさを必要としていたのか」
そう気づいたとき、
断食とは“食を減らす行為”以上のものだと悟りました。
空腹そのものが価値なのではなく、
減らしたことで生まれた余白が価値だったのです。
人は普段、たくさんのものを抱えすぎています。
食べ物、情報、刺激、予定、考え、タスク……
意識していなくても、
私たちの心と脳は常に“満たされすぎた状態”に置かれています。
その過剰さが、
疲れや焦りや不安を静かに積み重ね、
本当に大切なものを見えにくくしていた。
16時間断食が教えてくれたのは、
体を軽くする方法ではありませんでした。
減らすと、本来の自分が姿を現す。
その小さくて確かな真実でした。
断食は技術でも、流行でも、修行でもない。
それは“本来性へ戻るための生き方”なのだと、
私は空腹の静けさの中で理解し始めたのです。

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